インディアナポリス研究会コルツ部

歴史

2013シーズン

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Week9 11月3日
IND@HOU
27−24
 今季は月一ぐらいの更新にしたいと思っていたが、ヤケクソ気味に2試合連続の更新。バイウィーク鋏んでっけど。

 と、その前に恒例の本文と無関係な前書き。

 楽天イーグルスが優勝した。関係者、及びファンの皆様、おめでとうございます。しかし、この優勝に最も忸怩たる思いをしているのは、日本シリーズで敗れた巨人ファン、ではなく何と云ってもオリックスファンファンであろう。

 9年前、例の騒動の末、当時のオリックスと近鉄の一軍選手で構成されたのが現オリックス・バファローズ、当時のオリックスと近鉄の2軍選手で構成されたのが現楽天イーグルス、である。岩隈や磯部のような特殊な例外はあるものの、このように考えて、まず間違いはなかろう。

 それから9年間、楽天は2度のプレイオフ進出、1度の日本一。一方、オリックスはプレイオフ出場1度の結果である。楽天の9年間をどのように評価するかは意見の分かれるところではあろう。「2軍選手で構成された新チームから始まって、たったの2年間でよくぞここまで来た。」と評価する向きもあるだろうし、「9年もあれば、チームなんかどうにでも変えられるので、この9年は、むしろ時間の掛かりすぎだ。」と見る向きもあろう。

 日本のプロ野球は12チームでやっているので、単純計算で言えば12年に一度は優勝できるのだから、この9年は長からず短からずといった所であろう。少なくとも、オーガニゼーションは正しい努力をした、ベストではないもののベターな努力はしたと云うべきでは無いだろうか。

 さて、問題のオリックス、2チームの一軍選手で構成してこの結果、恥ずかしいとしか言いようが無いと思う。今季、ある意味、24連勝の田中に匹敵、ないし凌駕する数字を残した金子が、その田中の影で全く目立たないというのは、この9年間の楽天とオリックスの関係の象徴と云えるだろう。沢村賞は同時受賞でも良かったのでは無いだろうか。

 オリックスファンは、この怒りの矛先をどこに向ければ良いかと云えば、それは結局、宮内オーナーに向けるべきだと思う。
 今から20数年前、南海ホークスと阪急ブレーブスは同時期に、それぞれダイエーとオリックスに売却された。しかし、その後の20年間は大きく差が開いた。

 福岡に移転し、福岡ドームを立て、優勝、Aクラス常連チームになり、完全に福岡に根付いたホークス。神戸に移転し、すぐ優勝したものの、それっきり鳴かず飛ばず、イチロー以後は長期低迷中のブレーブス、ブルーウェーブ、バファローズ。
 本業の方では、派手に失敗した中内オーナーであったが、少なくともプロ野球界においては、正力松太郎は別格としても、それに次ぐ名オーナーだったと思う。内実はどうだか知らぬが、表面的には、それだけの結果を残している。あの閑古鳥の大阪球場での南海戦を野村(今と違って、当時はただの暗いパリーグのおっさんでしかなかった。)が解説するプロ野球中継を知る私としては、今の連日満員の福岡ドームは奇跡にすら思える。当時の南海一シーズン分の売り上げを、今のソフトバンク・ホークスは一ゲームで達成してしまうだろう。いや、大袈裟でなく。いや、大袈裟か。

 それはともかく、中内オーナーの功績は、正力松太郎を抜きにすれば、歴代ナンバーの実績と言ってよいと思う。堤オーナーも素晴らしい実績を残したが、ライオンズが埼玉に定着しているとは云いがたいので、次点である。しかも、あの土地は西武電鉄の土地なので、本業の為の誘致であると言えなくも無い。西武グループの営業活動の一環とも言えなくも無い。少なくとも、プロ野球界全体の為とは云いにくいだろう。

 それに引き換え、ホークスの福岡移転は、裏では何かがあるのかもしれないが、少なくとも表面的には純然たるプロ野球界のためである。西鉄ライオンズ移転以降フランチャイズの無かった福岡、あるいは北九州に大きなフランチャイズをもたらしたのである。ホークスの成功は、その後ファイターズの札幌移転を大きく後押しただろう。

 中内オーナーは、本業の方で晩年ゴタゴタがあったので、謂わば晩節を汚すみたいな形になってしまったけれども、ことプロ野球人としては立派な仕事をしたと思う。もっと讃えられて然るべきだと思う。

 一方、西宮から神戸に移転するという事に、どんな意味があったのかは今以って分からない。東北とまでは云わないが、少なくとも、四国、あるいは北陸に移転すべきだったと思う。
 そして、もうひとつ、宮内オーナーで不可解なのはチーム名をあまりにコロコロ変える点である。ブレーブスからブルーウェーブ、そうしてバファローズ。どんな定見があるのかさっぱり分からない。愛着も無いのだろう。大袈裟に云えば、この20年間で宮内オーナーは阪急ブレーブス、オリックス・ブレーブス、オリックス・ブルーウェーブ、大阪近鉄バファローズの4チームを潰している。しかも、ブレーブスは確か名称を変えないと云うような話だったのに、あっさり2年で反故。イチローと云う球史に残るプレイヤーを輩出したブルーウェーブも、あっさりバファローズに変更。このバファローズにどんな意味があるのか、今以って私にはさっぱり分からない。バファローズファンを吸収出来るとでも思ったのであろうか。結果的には、ブレーブスファン、ブルーウェーブファン、バフォローズファンを失っただけである。名前と云うもの意味を深く考えた方が良いと思う。

 一方、西鉄ライオンズとの因縁からホークスという名称は変えるべきではないかと言われていた福岡ダイエー・ホークスは結局そのまま、いつの間にか福岡に定着してしまった。旧南海ファンが今のホークスに愛着を感じているかは微妙であるが、少なくともホークスという名称は残り、あの緑のユニフォームはたまに復刻されていたりする。

 あと、これは些細な事になるが、最近はどこのチームも球団名の先頭に地方名をつけている。東北・楽天・ゴールデンイーグルスとか東京・ヤクルト・スワローズとか、古いところで広島・東洋・カープなのである。そんな中途半端なことをするなら、かつての横浜ベイスターズのように企業名も外してしまえと思うのであるが、それはともかく、現在、この地方名を付けていないのは4チー、中日と巨人、阪神、そうしてオリックスの4チームである。中日と阪神は、その企業名そのものが、それぞれ名古屋っぽい関西っぽい感じであるし、巨人が特殊なチーム、事実上、フランチャイズは日本全土みたいなチームであるから、かえって東京と付けることに違和感もあろう。でも一時期、東京読売巨人軍とか名乗っていた気もする。
 それはともかく、オリックスはオリックスのままである。一応事務手続き上は大阪と神戸がフランチャイズなので名乗りにくい(阪神と被る、「大阪神戸」では長すぎる等)という理由もあろうが、こんなところにも宮内オーナーの名前に対する鈍感を感じる。

 本題に入る前に、日本シリーズ絡みでもうひとつ。

 今回の星野の優勝を、阪神に続いて野村の後任(ブラウンを挟んでいるけど、)と云うことで、「野村の遺産で勝った」みたいな論調もあるけれど、それは当たらないと思う。
 何とならば、阪神時代も楽天時代も、主力選手は野村とは無縁の選手だからである。阪神時代の主力は、金本、伊良部(懐かしい〜。ご冥福をお祈りいたします。)、下柳、片岡、そうして野村に干されていた今岡。野村の息のかかった選手と云えば、赤星、矢野、これは微妙なところであるが井川ぐらいである。
 楽天時代に至っては、せいぜい田中と嶋ぐらいである。彼等にしたって、田中は別格の力を持っているし、嶋にしても野村だったら起用されていない可能性も高い。この楽天時代は、阪神時代以上に星野の力量で勝ったと見るべきだろう。まあ、もちろん、ロースター的な意味だけでなく、スカウティングの充実などは野村の功績が残っていたのかもしれないが、それが外部から走る由も無いので、考慮しない。

 それにそもそも、星野と野村では野球のスタイルが異なっているので、好む選手が大きく異なっていると思う。星野というのは典型的なピッチャー野球で、とにかくピッチャーが抑えて抑えて抑えまくり、どこかで点の入るのを待つ、今度の日本シリーズが良い例であるが、そういう野球である。
 一方、野村というのは典型的なやりくり野球で、打てない時は打てないなりに、守れない時は守れないなりに、何とか勝負しようという野球なので、ピッチャーの力というよりは野手の力、あるいは選手全員の力で勝つ野球である。それゆえ、スターターは万能型、ベンチは一芸型になる。かつて古田が、「野村さんは厳しい人だから、全部出来ないと使ってもらえない。」とこぼしていたのは、そういう意味である。ちなみに、こういう野球は、野村本人が望んでいるのか否かは分からぬが、観客が喜ぶような派手な野球になりやすい。語り草、新聞記事や雑誌記事になりやすい野球である。

 ここで星野に話を戻すが、このピッチャー型の野球というのは、当然ながらピッチャー出身の監督の好む、つうか、それしか出来ない野球である。この星野然り、横浜の権藤然り西武の渡辺然り、ちょと古くなるが巨人の藤田然り、ロッテの金田然りである。
 そうして、この手の監督は就任後、割合に早い段階で結果を出す。1年目2年目で優勝してしまう。八木沢のような失敗例もあるけれど。今回の楽天の就任3年目はむしろ遅いぐらいである。この辺は楽天というチームの特殊事情か。そもそも、監督の変わるチームなんていうのは、投手力に問題のあるチームが多い訳だから、投手出身の監督が投手陣を整備すると大概勝ててしまうのである。

 ところが、この手の野球は長続きしないのも、また一つの特徴なのである。就任早々結果は出すものの、王朝、黄金期が作れないのも、ピッチャー出身の監督の特徴である。野手出身の監督も当然3年以内に結果を出さねばクビになるが、一度結果を出すと黄金期を作る監督も多い。ただ、ピッチャー出身で黄金期を作った監督はいない。

 野球というスポーツは、スパンが短くなればなるほど、すなわち、この1試合、この1イニング、この1打者、この1球となればなるほど、ピッチャーが重要になり、逆にスパンが長くなればなるほど、すなわち、この10試合、この1シーズン、この10年となればなるほど、野手が重要になる。

 分かりやすい例を挙げれば、いわゆる王朝時代黄金時代を作ったチームの顔は大概バッターである。巨人の長嶋・王、広島の山本・衣笠、西武の清原・秋山、皆バッターの名が最初に上がる。ここで、城ノ内や堀内、江夏や北別府、工藤・渡辺の名が最初にあがる事は無い。ただ西鉄や阪急になると、大下・中西の前に稲尾の名が上がったり、福本・加藤の前に山田の名が上がったりするかもしれない。この辺は上記3チームに比べると、この2チームがやや成績的に劣る所以かもしれない。
 一方で、所謂ワン・イヤー・ワンダー、1年だけ派手に活躍したチームの顔は、大概ピッチャーである。98年横浜の佐々木、60年大洋の秋山、62年の土橋と尾崎、54年の杉下など、大概ピッチャーが顔である。日本一にはなっていないが、80年日本ハムの江夏などもその一例だろう。78年のヤクルトや、日本一にはなっていないが60年の大毎などは、それぞれ、マニエル・大杉・若松、山内・田宮・榎本などバッターの名が始めに上がるが、これらのチームは本来王朝を作ってもおかしくない状態であったにもかかわらず、それを自ら潰してしまった例といってよいだろう。それぞれ、西本、広岡という後の名将を追い出してしまっている。85年の阪神は、これはまあ、特異な阪神的現象として片付けておきますか。

 また、10連勝以上の大型連勝も大概打線爆発の結果であり、ピッチャーが抑えまくって10連勝という事例は少ないと思う。また、高校野球も、これも優勝するには10連勝ぐらいしなければならない大会であるが、優勝チームは大概打線である。10年に1回ぐらいはピッチャー、大エースの力だけで優勝してしまう例もあるけれども、それは例外である。優勝チーム、ベスト4に入るチームは大概打線である。もし、ピッチャーの力だけで優勝できるというのなら、江川は楽々優勝していただろう。また、「甲子園優勝投手はプロで大成しない」といわれるが、それはこれの裏からの証明である。逆から云えば、プロで大成しないような投手でも、甲子園では優勝できるということである。

 では、何故、こういう事象が起こるかと云うと、理由は簡単で、要するに「野球はピッチャーであるけれども、ピッチャーは全試合全イニング投げられない。」からである。もちろん、ルール上は投げられるが、当然、疲労や怪我でベストのパフォーマンスが出せない。まして、10年近くにわたって、一定以上の成績を上げられるのはほとんど野手であって、ピッチャーでは、ごく一部の例外を除き、まず不可能である。

 ところが、ピッチャー出身の監督というのは、ピッチャーは分かるが、バッター、更には打線の事は全く分からない。「元気が良ければ、それで良し。」ぐらいのノリが多い。あと、アベレージ・ヒッターよりホームランバッターの方を好むという特徴もある。私はかつて、藤田監督の一番白幡という打順に絶句した事がある。

 あともうひとつ、野球というスポーツは、3点獲るのはなかなか難しいが、優秀な監督・チームだと、1,2点ぐらいなら四球やバントを絡めて強引にむしり取る事ができる。7回までは僅差でゲームを進め、7回以降1,2点強引にむしりとって、後はリーリーフエースを投入して逃げ切っちゃう、というのが王朝を作るようなチームの必勝パターンである。「V9巨人は7回から野球を始める」とはよく言われていたし、強い時の西武もそういうチームだった。王朝を作ったとは云いがたいが、90年代後半のヤクルトにもそういうところがあった。tころが、これがピッチャー出身の監督にはどうしても出来ない。ただ点が入るのを待つだけである。

 この辺は、どうしてそうなのかまでは良く分からないが、「ピッチングに比べ、バッティングの方が難しい事」、「ピッチャーは孤独であるのに対し、野手は打順、守備ともにチームプレイである事」、「ピッチャーは何よりホームランを嫌がる事」などが挙げられるのではないだろうか。

 この辺の理由はともかくとして、とりあえず来季勝ちたいのなら、ピッチャー出身の監督あるいはピッチャーを補強すべきであり、10年近く勝ちたいのなら野手出身の監督あるいは野手を補強すべきという結論になる。今シーズン、二刀流の大谷が話題になったが、来季勝ちたかったらピッチャー、王朝を作りたかったらバッター、に専念さすべきだろう。さいわい、バッターになればコンビを組める中田もいる。でも、メジャーに行きたがっている事を考えれば、ピッチャーか。さあ、どうします、日本ハムさん。

 長々とした前置きはこれくらいにして、フットボールの話、コルツの話。

 今季も、ここまでいくつか、無理矢理時間を作って、少ないながらも観戦記を書いてきたのであるが、よく考えてみるとマニングへの悪口が多い。意外に純然たるゲーム評は少ない。そこで今回は純然たるゲーム評を書いてみたいと思う。

 率直な感想は、まさしく「よくぞ勝てたな。」である。第2クォーター終盤、キックリターンからのターンオーバーがビデオ判定で覆り、挙句タッチダウンを取られた時点では、負けを覚悟した。「ビデオカメラを開発した奴、出で来〜い。」とか、訳の分からん八つ当たりまでした。

 ビデオカメラの開発者はともかくとして、負けを覚悟した最大の要因は、この3−21のビハインドの要因が、ミスとか運のような微細なものではなく、ウェイン不在によるオフェンスの機能不全という、謂わば構造的な理由であったからだ。これは、工夫や戦術では如何ともしがたい。

 そもそも、この戦前から予想された「ウェイン不在によるオフェンスの機能不全」に関しては、何らかの手当てを打ってくるのかなと私は思っていた。そこで、17番の選手を見た時、「コイツが、その答えか。」と雀躍したものである。しかも、17番の白人選手だったので、「あれっ、いつのまにかオースティン・コリー復活していたのか。」と欣喜していたら、よくよく見ると背中にはWHALEN。ラック枠で入団したスタンフォード大の選手だった。

 それでも、もしかしたらコリーの魂を受け継いだポッゼションタイプかと期待していたら、これが全然ダメ。典型的なグリグソンのWRだった。ルートラン、グッダグダ。あれなら、まだブレア・ホワイトの方がマシな気がする。あいつ、今何やってんの。

 ウォーレンがダメなら、他の連中は死ぬほど(2万本)クイックスラント練習してきたのかと思いきや、ベイ・ヒルトン(ホテル名ではない。念のため。)が試合前半でがっつり連続スラント落球(連続ではなかったかも、適当な記憶。)。こりゃ駄目だ。

 一方、ヒューストンは典型的なゾーンブロックスキームからディープへド〜ンがアンドレ・ジョンソンのガッツリ決まる。「おい見たか、ベイ。あれだよあれ、あのプレイだよ、あのルートランだよ。」と聞こえないのは分かっているが、思わず私はテレビに向かって説教してしまった。
 しかし、大学時代、御学友のレジー・ウェインと死ぬほど(推定2000億本)練習してきたルートランを、このウェイン不在のゲームで見せ付けるとは、おヌシなかなかやるのお(70年代少女マンガ風に、)。

 つう訳で、内容的にもツキ的にも完全に負けゲーム、しかも18点差付けられていては、さしもの逆転のラックといえども、どーにもならぬと思い、戦前は勢い的にもメンツ的にも勝ちを予想していたゲームだったので、「しゃーない、ロードだしな。なくはない、なくはない。」と訳の分からん理由を付けて自分を慰めていた。自慰してた。ハーフタイムから第4クォーター序盤までは。いやエッチな意味ではありませんよ。いや、ホントにホント。

 2回のレッドゾーンでともにFG止まりなのも、スコア的にというよりは構造的にこたえた。ところが、怒涛の第4クォーターでまさかの逆転勝ち。逆転ラックなので慣れてるちゃあ慣れているが、いや慣れていない。狐につままれたようなというのが、コルツファン、テキサンズファン、そしてテレビの前のみんなの率直な気持ちでは無いだろうか。私も、である。80年代だったら、マジックと表現されるべき勝利であった。

 通常、逆転勝ちには何らかのモメンタムチェンジャーが付き物である。ところが、このゲームにはそういったものは見当たらなかった。キュービアックがハーフタイムで倒れたというのが、これがモメンタムチェンジャーになるのかは不明である。

 昨シーズンの開幕前、HCを失ったNOは苦しむと予想し、実際その通りになったけれども、これはシーズン丸々いないので当然の話である。また、我等がコルツもパガーノを失ったが、新任HCなので、事実上は代理のエイリアンズが実質的なHCだったと云えるのでNOとは事情を同じくしない。
 今後のヒューストンはともかくとして、このゲームに限って後半キュービアックがいなかった事に、どういう影響があったのかはよく分からない。HC経験豊富なフィリップスもいる訳だし、大きな影響は無かったと思う。むしろ、エモーショナル的には盛り上がる要因にも成り得たのではないだろうか。いや、キュービアックが嫌われているとか、そういう意味じゃなくて、「HCの為に勝とう」みたいな意味で。手痛いパントミスもあったけど、この時点で既に19−24なので、モメンタムチェンジャーとも言えないだろう。

 モメンタムチェンジャーというのは大きなターンオーバーとか采配ミス、誤審などが挙げられると思うが、そういうものは3−21、あるいは6−24の段階では無かったと思う。

 となると、コルツは自力で逆転勝ちしてしまったと云うことになる。それも実質第3クォーター終盤からの20分程度で18点差を逆転したことになる。残り20分で18点差の逆転となると、守備陣特別陣の得点が無いかぎり、実質的には全てのドライブをタッチダウンせねばならないという事である。そうして、それをコルツは完遂した。誰が、ラックという事にならざる得ない。

 でも、これだけ逆転劇、更には強豪相手のアップセットが続くとなれば、それはもうラックに何かがあるとしか言いようが無い。
 このゲームに限らず、このラックを見ていて思うのは、その判断力の正しさ、正確無比な判断力である。小さい判断から大きな判断まで、ことごとく正しい。結果、ドロップしたり、オーバースローしたり、などはあるが、それらはあくまで技術的な問題で、ラックの場合、判断そのものは何の問題も無い。全て正しい。サイドライン、あるいはファンが望んでいる事、必ずやってくれる。少なくともやろうとはする。

 例えば、QBの判断で、ファンの目、あるいはサイドラインの目から見て、最悪なのは、どうしてもファーストダウンを取らなければいけない時に、チェックダウンやスクリーンなど奇跡的なRACが無ければ、どう考えてもファーストダウンを取れないようなパスを投げてしまうQBがいる。もちろん、本人は必死にやっての結果なのだろうけど、「インターセプトされても良いから、ファーストダウンを取れるところに投げろ。」というのがファンの要望だし、フットボール的にも正しい判断であろう。ラックはこういう事はまずしない、というか絶対にしない、少なくとも私は見た事が無い。ラックの投げんとした所は、私の投げんとした所である。

 例えば、先のデンバー戦でも、試合開始当初はランでダラダラ攻めていたが、一度マニングに先制のタッチダウンを奪われるや、果敢にパスを投げていく。結果的にはFG止まりだったけれども、これは正しい。マニング相手に2TDs以上離されては絶対にいけないからだ。
 ラックというのは、こういう大きい判断が本当に素晴らしい。投げ捨てた方が良いのか、スクランブルした方が良いのかというような小さな判断も勿論正しいのだが、その基礎となる大きな判断、わたしはかつて、このラックを羽生と比べた事があるが、将棋で云うところの大局観が本当に素晴らしい。フットボールというゲームの構造を本当に良く理解していると思う。そういうものがプレイの端々に見て取れる。

 こういうのは、またマニングの悪口になって恐縮であるが、マニングには無かったものだ。マニングというのは「小さな判断の積み重ねが勝利に導く」という考え方の持ち主であって、それが顕在化したのがマニングのノーハドル・オーディブルである。絶対に正しい判断が積み重なって(後出しジャンケンだから、当然だけど、)、勝つのがマニングであり、大局観、ゲーム全体を見て、謂わば第4クォーター終了の段階から逆算してゲームを組み立てる、なんて事はしなかった。つか、そんな事をしているのはラックしかいない。

 「第4クォーター終了の段階から逆算してゲームを組み立てる」と今私は書いたけれども、そんなことは普通出来ることでは無いし、前代未聞のクォーターバッキングといってよいと思う。私の思い過ごしかもしれないが、そうとでも考えなければ、これだけの数の逆転劇は説明が付かない。
 例えば、このゲームでも、第3クォーター中盤までさっぱりだった、ヒルトン&ベイの中短距離を、突如スパッと諦め、長距離のヒルトン、中距離のフリーナー、短距離のリチャードソンといきなり使い分けてくる。今のコルツのレシーバー陣の構成を考えれば、生産性があるのはこれしかないのであるが、その生産性を高める為に、わざと序盤、ヒルトン&ベイの中短距離を使っていたようにすら思えてくる。成功したら成功で良し、失敗したら失敗したでゲーム終盤に正攻法で攻めるという訳である。謂わば、必勝のシステムである。ウェイド・フィリップスはそれにまんまと引っかかったという事になる。

 これがわざとでなかったとしたら、ラックはヒルトン&ベイの中短距離の失敗を今度は利用してきたという事になる。
 失敗に対しては、人間の態度は大きく三つに分かれる。
 一つ目は、失敗を恐れ敬遠する。これは下である。バカの態度である。例えば、野球なりフットボールなりで、サインが盗まれたからといって、サインは使わない、ノーサインでやる、なんていうのはバカの態度である。
 二つ目は、失敗を研究し改善する。これは中である。凡人の態度である。先のサインの例を用いれば、サインが盗まれたので、盗まれないサインを考えよう、これは凡人の考え方である。マニングのノーハドル・オーディブルも、これであろう。
 三つ目は、失敗を利用する。これは上である。賢者の態度である。サインの例で謂えば、サインが盗まれたのなら、盗まれたままにしておいて、大事なとこだけ裏に張る。これだと、的は自分達のサイン盗みがばれてないと思い、使い続けれるので、永遠に勝てる。そのうち、気が付くけどな。これが賢者である。そうして、ラックはこれかもしれぬ。

 昨シーズン、パガーノが病に倒れた時、ラックはサッと頭を丸めた。勿論、ラックは真心から剃髪したのだろうが、心が汚れきっている私は、「髪の毛ひとつ(何万本もあるだろうけど、)でリーダーシップが買えるものなら、安いものだな。」と思ったものである。そうして、マニングだったら同じ事をしたかなとも思ったものである。

 もちろん、マニングのようにスナップ前に失敗の要素をひとつ残らず消してしまうというのも、ひとつのやり方だろう。ただ、ラックはそれをスナップ後でも出来る。謂わば、ノーハドル・オーディブル無しで、マニングと同じ事をしていると言えるのかもしれない。

 こんなことをゲームを見ながら、そうしてゲームを見終わった後、私は思ったのであるが、そうとでも考えなければ、このラックの逆転勝ちの多さ、強豪に対するアップセットの多さは説明が付かないと思う。なにしろ、ここまで前17勝のうち10勝が逆転勝ちであり、強豪にボコられたのも昨季のNEとプレイオフのBALぐらいである。CHIとNYJをどう見るかは微妙ではあるが。プレイオフのBALなどは、このラックを見ていると、勝てていたんじゃないかという気さえしてする。それくらいのQBである。

 10年に一度の逸材と言われていたのも納得である。ラックの大学時代を数試合見た事あるが、その時点ではこの資質に気が付かなかったのも当然である。ラックの最大の武器は、この判断力である以上、スローイングフォームがどうの、フットワークのリズムがどうの、言っても無意味なのである。そうして、ラックの特長というのは数試合見たぐらいでは分からない。シーズン丸々見て分かる能力だからだ。それゆえ、これだけの結果を残しながら、いまいちマスコミ的に弾けていないのも頷ける。スタッツだけからでは全く分からない能力だからだ。ラックの能力をはっきり分かっているのは、まずはチームメイト、それからようやくコルツファンのみであろう。

 ラック話は、これくらいにしておいて、ヒューストンの感想をちらほら。

 このゲームのヒューストンの敗因は明らかにラックであるが、もうひとつ挙げるとしたら、ベン・テイトだと思う。それも彼の力量の問題ではなく、ヒューストン自慢のゾーンブロック・スキームとの相性の悪さである。
 前半で21−3とリードしてしまえば、後はダラダラ得意のゾーンブロックで逃げ切ってしまうのがヒューストンの必勝パターンである。それが出来なかったのは、ベン・テイトが全然ゾーンブロック向きのランナーでは無かったからである。私の見たところ、典型的なインサイドランナーである。マーション・リンチとかスティーブン・ジョンソンのような、イナサイドインサイドと衝いて、どこかのタイミングでオープンに出て数字を稼ぐタイプのランナーである。フォスターのような典型的なワンカット・ランナーではない。
 ベン・テイトで時間を稼げなかったというのが、ヒューストン二つ目の敗因だと思う。でも、これは編成側の責任であって、テイトの責任ではない。むしろ、テイトは被害者だろう。

 ゾーンブロック・スキームと云えば、控えのケイス・キーナムが活躍していたが、これは完全にゾーンブロック・スキームの賜物であって、彼の能力ではない。このスキームのひとつの特徴は二線級のQBでも十分結果が残せるという点である。かつて、イエーツも結果を残したし、そもそもシャウブとて一線級ではない。
 一方で、それがこのスキームの限界とも云える。ヒューストンの最終ドライブで55ヤードFGを蹴らざる得なかったと云うのが、キーナムの本当の力である。FGを蹴れる所まで進めれば上出来だという説もあろうが、このゲーム、FG外し連発のキッカーに55ヤードはいかにも無理である。何が何でも30ヤード以内、出来れば20ヤード以内に進めなければいけないドライブだった。そういった意味では、最後のパスはインターセプト覚悟でもう少し奥に投げ込むべきであり、あるいは20ヤード以内に進入できるようなドライブを構築すべきだった。ラックなら成功不成功はともかく、そうしただろう。ラックとキーナムの判断力の差が如実に出た場面だった。スキーム頼みのオフェンスの限界が如実に出た場面だったと思う。

 そのほか、ヒューストンの敗因として、パントミスと計3度のFG失敗が上げられるが、FG失敗は、モメンタムチェンジャーとまでは言えないものの直接得点に絡んでいるので、敗因ちゃあ敗因だろう。ランディ・バロック、来週もテキサンでいられるか、はともかくドラフトピックを使ってまで獲得したキッカーとしてはお粗末だったと思う。弁明の余地は無い。

 一方、レッヒラーのパントミスであるが、これも痛いちゃあ痛いが、普通にパントを蹴っていたとしても、よほど良いパントで無い限り、ラックは似たようなドライブを見せていたのではないだろうか。小さな敗因かもしれないが、大きな敗因とは言えないと思う。

 それはともかくとして、今回レッヒラーの犯したようなパントミス、バックスピン懸かり過ぎて落下地点から10ヤードほど下がってしまうというのは、NFLの各試合でも最近よく見かける。一昔前はバックスピン自体が少なく、こういうミスはあまり見かけなかったように思うが、ここ最近、バックスピンはNFLの全パンターの必須テクニックとなり、こういう、謂わば墓穴を掘る形も多い。技術進歩の難しいところではある。あの場面も、バックスピンをかけなければ、最悪タッチバックで済んだと思うので、28ヤードは損してしまった事になる。もう少し奥、ゴールラインぎりぎりに蹴り込んでバックスピンを書ける予定だったんだろうけど。

 キッカー・パンター絡みの話でもうひとつ。
 このゲームでもヴィナティエリ様が喰らっていたが、最近、ここ1,2年、キックブロック、パントブロックがとみに増えてきたように思う。各ゲームで一試合1回ぐらい起きている印象がある。数年前までは、1シーズン全体であるかないかみたいな印象だったけど、最近激増していると思う、あくまで印象だけど。数年前に比べて10倍、は大袈裟だけど5倍くらいには増えている気がする。あくまで印象だけど。何か大きな技術革新でもあったのだろうか。

 あと、そう云えば、ラックの逆転劇ですっかり忘れてしまったが、このゲームの序盤、マカフィーのおもしろパントがあった。ああいう場合は、とりあえず蹴っちゃえば、最悪インエリジブル・ダウンフィールド・キックになって5ヤード罰退やりなおしで済むのね。勉強になりました。

 ゲーム評はこれくらいにして。今後のコルツについて。

 このゲームは勝つには勝ったけど、内容的構造的には完全に負けているゲームだった。前半が両者の正しい姿だと思う。特にコルツのオフェンスの機能不全は今期中には解決しそうに無い。ウェインに代わるレシーバーがストリートにいるとはとても思えないし。現ロースターではブラジルに一番希望を感ずる、少なくとも最もルートランが上手いのはブラジルであろうが、いまいち起用されないんだよなあ。ウォーレンよりはブラジルだと思うが、どうだろう。

 このゲームであった、あのバカクソ長いカバレッジサックが今のコルツのオフェンスを象徴していると思う。

 で、問題のベイであるが、このゲームでも素敵なパスインターフェアを誘発。すっかり、パスインターフェア要員である。板に付いている。パスインターフェア一つにつき3ドル貰える、みたいな契約になってんのか。

 でも、ラックは勝っちゃうんだよなあ。こういうゲームを見せられると、チームメイトは完全に信用、つうか信仰するし、特にディフェンスは何点差が開いても、諦めなくなるだろう。ディフェンスは気持ちなので、これだけでも非常に大きい。このゲームで見せた、試合終盤、チャレンジでひっくり返ったアンドレ・ジョンソンのレシーブなどは、あれは完全にディフェンス(ダリアス・バトラーだったかな。)の気持ちである。気持ちが無かったら、ジョンソンはもっと楽にインバウンズでキャッチしていただろう。

 また、敵チームから見ても、こういうゲームを見せられると、コルツ相手というかラック相手には何点差をつけても安心できなくなる。それは良し悪しであるが、そういう気持ちにさせるだけでも大きい。不気味なものが残る。

 とまあ、「結局はラックかあ。」と今季の残りゲームに限らず、これから当分の間、それが10年間か5年間かは分からぬが、言い続ける気がする。と、そんな事を思わせるゲームではあった。

                                         2013/11/10(日)

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