インディアナポリス研究会コルツ部

歴史

2013シーズン

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Week16 12月22日
IND@KC
23−7
 楽天、来季はユーキリスだってよ。一昔前はバリバリは巨人の大好物だったが、最近は楽天、つか三木谷か。

 それはともかく、今年最後の記事である。まあ、ゲームそのものは、そんなに注目するほどの内容でもないので、見ながら感じた事を雑記風に。って、それはいつもと同じか。

 このゲームを見ていて、まず何より強く感じたのは、最近、怪我も癒えたのか、出番の増えてきたビジョーン・ワーナーである。ここ2試合で2サックとドラフト一巡の存在感を見せている。

 私の見たところ、プレイスタイルは、ガンガンパスラッシュに行くと云うよりは、コンテイン中心でQB、RBの動きを見ながらサック、ないしタックルに行くというスタイルのようである。そのタックルも、体ごとぶつかっていくとかマシスのように相手QBの手を狙ってファンブルフォースに行くのではなく、両腕を大きく広げキャリアーを包み込む基本どおりのスタイルである。以前、WRの時にも似たような事を書いたが、外国人や無名選手の方が意外に基本に忠実なプレイをする、その好例であろう。謙虚にコーチの云う事に耳を傾けるのだと思う。

 したがって、プレミアパスラッシャーというタイプでは全然ないが、チームに欠かせないタイプのプレイヤーになっていくと思う。ドラフト時、理想的な4−3LEというような評価だったが、まさしくその通りだと思う。1巡10位以内でこのクラスのプレイヤーだとガッカリ感が払拭しきれないが、1巡24位でこのクラスだったら、十分満足大満足である。
 あと、イメージしていたより大柄なので、シチュエーションのよっては3−4のエンドにセットしても面白いと思う。

 そのワーナーの活躍に入れ替わるようにという訳でもないが、IR入りしてしまったパット・アンゲラーであるが、こちらは来季の再契約は厳しそうである。少なくとも、私がGMならリリースである。

 当時の記事にはあえて書かなかったのであるが、ラムズ戦やカージナルス戦、あるいは前半で大きくリードを許したテキサンズ戦、その大量失点の理由のひとつが、このアンゲラーだったと思う。

 まあ、何と云うか、パシュートアングルが浅いと言ってしまえば、それまでだけど、もっとくだけて云えば、タックルが早いのである。もう1歩2歩後ろからタックルしないといけない。自分のタックルに自信があるのか、ちょい早めでタックルしてしまい、しかも相変わらず上から覆いかぶさるようなタックルなので、結果タックルミスを連発、ロングゲイン、大量失点である。当時の失点の半分くらいはアンゲラーに因がある。彼のIR入り以後、ディフェンスが安定するようになったのは、決して偶然では無いと思う。

 タックルというと、かつてのボブ・サンダースのような、ミサイルが突き刺さるような、そうして結局自身の身体も破壊するようなハードヒットが、最もフットボールらしいプレイとして、プレイヤーに、そうして何よりファンに好まれるが、私はああいうハードヒットは結局のところ邪道だと思う。ファンブルフォースという側面はあるけれども、両者の身体を痛めるだけである。

 上にも書いたワーナーのような、あるいはかつて書いたパトリック・ウィルスのような、両腕を広げボールキャリアーを包み込むようなタックルがベストだと思う。まあ確かに、見かけは悪いけれども、これが最も安全であるし、タックル本来の目的にも忠実である。

 タックル本来の目的と何かと云うと、それは申す迄もなく、ボールキャリアーの進行を止める事である。断じて、ボールキャリアーを痛めつける事ではない。ハードヒットでファンブルを誘うという側面もなくは無いけれども、それはあくまで副産物であり、本来的にはボールキャリアーの進行を止めるのが目的である。
 したがって、両腕を大きく広げボールキャリアーの進行を妨げ、そのまま包み込むのが理想である。ボールキャリアーを地面に倒さなくても、そこで笛は吹かれる。進行を妨げる為により良いのは、足を抱え込んでしまう方法であろうが、こちらは怪我の危険性が増すので理想的とはいえない。

 アンゲラーは、このタックル下手に加え、パスカバーもさほどでもないので、フリーマンの台頭も考慮すると、さすがに来季は厳しそうである。

 アンゲラーの来季はともかく、この度は久々の週刊マカフィーである。おっ、パットつながりだ。そうして同様に、こちらも来季契約切れである。
 マカフィーは距離は相変わらずよく出る、つうかリーグ有数の飛距離を持つパンターであろうが、コントロールパントはこちらも相変わらずである。2年目3年目あたりまでは、それでもその技術を習得しようと努力している跡が見られたが、4年目あたりから。もう諦めたのか面倒くさくなったのか、はたまたパガーノの指示か、コントロールパントは諦めて、10ヤード以内はセルジオ任せのようである。

 このゲームではそれが功を奏したのか、ナイスパントを決めていた。そうして、その後、ゴルフのチップショットを決めたかのようなパフォーマンス。放送席の失笑を買っていた。セレブレーションと云うと、WRやRB、あるいはLBなどが多用するが、パンターのセレブレーションは珍しい。

 例の川転落のエピソードからも知られるように、このマカフィー、なかなかのお調子者キャラのようである。サイドラインではしゃぐ姿も目に付くし、キッカーやパンターはどうしても、その職能上、チームから孤立しがちであるが、そういった意味では、このマカフィー、なかなか珍しい性格の持ち主らしい。キャリアでは遥かに格上、つうか殿堂入り級のヴィナティエリの頭をパカパカ叩いていたりもするし。

 んで、今季はフランチャイズタグでの契約なので来季は未定である。面白いから延長しとくか。まあ、パンターにフランチャイズタグつうのも訳分からんが。

 そのマカフィーによく叩かれとるヴィナティエリであるが、久々にヘルメットを外している姿を見たら、なんかファーブみたいになっとった。ジャージナンバーの4番なので錯覚したわ。

 そのほか、ゲームの感想はと云うと、KCのゾーン多用がちょっと気になったというか、参考になった。

 それはすなわち、さすがにゾーンではラックは抑えられないという事である。ゾーンだと、コルツ・レシーバー陣のヘッポコ・ルートランニングの傷が消える。そうなれば、ラックはポンポンパスを通す。「一流QBにはゾーンは通用しない」とはよく云われるが、まさしくそのとおりの結果になった。一流QBと戦う時はQBと勝負するのではなく、レシーバー陣にマンカバーでぺタッと張り付く、すなわちレシーバー陣を潰す方が得策なのである。もちろん、ゾーン、マンカバーを問わず、パスラッシュは必須である。そんなことを思わせたこの日のKCのゾーン主体の戦略だった。無論、その戦略を敷いたリードを責める心算は毛頭無い。外部からは伺えぬ色んな事情があるだろうからである。まして、プレイオフでの対戦の可能性の高いカードでもあるし。

 そうして、ラックもそれを考慮してかしらずか、勝利の見えた第3クォーター中盤からは早々と店じまい。パスを封じた。この辺の変わり身の早さというか見切りの良さというか、それはパガーノの指示によるものなのか、ラックの性格なのか、それともハーボーの教育の賜物なのか、理由はよく分からないが見事としか言いようが無い。これがマニングだったら、考え無しに試合終了まで攻め続けていただろう。
 ラックと云えば、逆転勝ちが専売特許であるが、こういう勝ちゲームを確実に勝つ能力も本当に素晴らしい。将棋用語でいうところの、「まとめる」能力も長けている。「優勢」を「勝利」に変える技能である。

 こういう能力が、以前私の書いた、ラックの判断力の確かさ、とりわけ大きな判断力の確かさである。同じく将棋用語を用いれば「大局観」である。ゲームトータル、あるいはシーズントータルで判断できる。そうして、おそらくマニングに最も欠けた能力である。

 かてて加えて、ラックは小さい判断も素晴らしい。本当に正確無比である。例えば、スクランブルをして、スクリメージを越える前にタックルされそう、すなわちサックされそうになるとサッと投げ捨ててしまう。同じように、スクリーンプレイでバックフィールドでタックルされそうになるとやっぱり投げ捨ててしまう。基本と云えば基本かもしれないが、この判断をラックのように正確無比に行えるQBはそうはいない。というか現今のNFL随一である。

 また、このゲームで見せたドナルド・ブラウンへのTDパスのように、これこそラックの真骨頂であると思うが、左へパスしようとして、投げる瞬間に右側のブラウンへパスなんて芸当はラックしか出来ない。ヒューストン戦での決勝TDランも同様であるが、ラックはパスをするギリギリのところで判断を変更できるのである。パンクフェイクなんて甘っちょろいものではない。パンクフェイクの場合は、身体はもちろんパスしようと動いていても、頭の中は偽投なので当然止めようとしている、つうか止める。それでも、引っかかるディフェンダーは引っかかるであるが、利口なディフェンダーには分かるものである。それが例えば、マニングの至高のパンクフェイクであっても、分かる奴には分かるものである。それはあらゆるフェイクプレイの宿命であろうが、それはプレイヤーの体の動きからではなく、経験上、すなわちゲーム状況やプレイヤーの性格から、意外に正確に判断できるものなのである。頭の良いディフェンダーや経験豊富なディフェンダーには大概通用しないのがフェイクプレイの宿命である。実際、ディフェンダーどころかカメラマンでさえも軽々には騙されない。

 ところが、ラックのフェイクは違う。ラックの場合は、身体のみならず頭の中も本当に投げようとして、リリースのギリギリのところで投げるのをやめたり投げ捨てたりするのである。まさしく21球の江夏である。件のブラウンへのTDパスでKCのディフェンス陣が豪快に騙されていたが、「そりゃ、騙されるわ。」と私はテレビを見ながら思ったものである。

 一般に「判断は早ければ早いほど良い」とされている。「フットボールは準備のスポーツだ」とか、「バッターボックスに入る前に狙い球を決めておけ」なんていうのは、その命題からの演繹である。判断を早めにしておけば、あとは行動に専念できるからである。
 ところが、ラックの場合はギリギリまで判断しない。本当に投げる直前、ボールをリリースする直前まで判断しない。この利点は、判断が遅ければ遅いほど、その判断材料、すなわちファクターがより多くより正確に入手出来ると云う点である。ハドル前にプレイを決めるよりも、ハドル後にプレイを決めるオーディブルの方がより有利なのも同じ理由である。また、このブラウンのTDパスの例で云えば、ハドル後どころかスナップ後、それもスローをするギリギリのところで判断しているのだから、判断の正確性がより増すのは当然であろう。

 ただし、そのより正確な判断を基に行動できるかと云えば、それはまた別問題である。オーディブルを例にとれば、セットした後にプレイを変えるのだから、オフェンスチームにそれなりの習練が必要である。実際、マニング初期のコルツはかなりバタバタしていたし、それを理由にオーディブルを嫌う論者も多かった。デンバー入団後、それが割りにスムーズにいったのは、マニングにそれなりのノウハウがあったからだと思う。
 まして、ラックのように投げるギリギリまで判断しない、あるいは判断を変更できるなんていうのは、ほとんど神業である。まさしく21球の江夏である。それゆえ、先に挙げた「判断は早ければ早いほど良い」という命題が生まれたのである。ちなみに、この命題を基にした究極のクォーターバッキングはフィッツパトリックのそれであろう。このQBはスナップ前の段階での完全決め打ちQBである。そりゃ、クイックリリースだわ。そういった意味では、フィッツパトリックというのはラックの対極にいるQBという言い方が出来るかもしれない。ファーストターゲット・ガン見なんていうのもラックからはなれたクォーターバッキングと云えるだろう。

 もっとも、このラックと同じ芸当が他の誰に出来るかと云えば、それは現今のNFLでは皆無だと思う。マニングやブレイディでも厳しいだろう。ラックのようなフィールドヴィジョンとボールを自在に操れる右手があって、初めて可能な芸当だと思う。また、やらない方が良いだろう。情人は「判断は早ければ早いほど良い」で十分である。それに徹すればフィッツパトリックのような生き方も出来る。

 この日の対戦相手のアレックス・スミスも、ラックと同じ全体一位のQBであるが、この芸当を含めた判断力という点では、ラックとは雲泥の差がある。大学時代、ゾーン・リード・オプションという、あまり判断力を要しない、というか判断を極力単純化したスキームを用いていたというのも、その一因かと思われるが、判断が、このゲームに限らず、本当に拙い。まあ、それが普通なのであって、ラックのような方が異常なのであろう。

 このラック、遂に入団以来2年間連敗なし、しかも2年連続プレイオフ進出を決定してしまったのであるが、まあ世間的にはラックなら当然みたいな雰囲気であるが、これは何度も言うようであるが、偉業である。全体一位という事は、その前年リーグ最下位ということですよ。それまでマニングでプチ王朝を築いていたとはいえ、一年目はその反動でデッドマネー地獄、そこからの2年連続連敗なしプレイオフ出場って凄くない、スゴクナイ。

 ペイトン・マニングは、インディアナポリス・コルツ史上最大の功労者であることは異論の余地が無いと思うが、その最大最高の功績は「ラック・エントリーの前年に怪我で全休」であるような気が最近してきた。スーパーボウル制覇以上の功績かもしれない。
 過日、Jスポーツでエルウェイ・マリーノの年のドラフトのドキュメンタリーが放送されていたが、ピッツバークがマリーノを指名しなかった要因は色々あるが、そのうち最大のものは、当時まだ現役だったブラッドショーへの配慮だったと紹介されていた。
 ところが、丁度その年、ブラッドショーが怪我をして、そのまま引退という顛末、というかオチがつくのである。もし、ブラッドショーの怪我が一年早かったら、あるいはマリーノのエントリーが一年遅かったら、スティーラーズのマリーノが誕生していたかもしれない。ホント、タイミングとは世にも恐ろしいものである。まさしく、「人生、ノリとタイミングが大事」、である。もしも、マニングの怪我が一年ずれていたら、恐っ。

 さて、プレイオフ前、最後の記事になると思うので、プレイオフの予想をして、この記事、つか本年最後を締めたいと思う。

 まずは、NFCであるが、こちらはどう考えてもナイナーズとシーホークスの一騎打ちだと思う。どの時点で対戦するかは不明であるが、それが事実上のNFC決勝、あるいはNFL決勝と見た。対抗に、パンサーズやセインツが挙げられているが、ちょっと及ばないと思う。むしろ、現時点ではプレイオフに残れるか否かは不明であるが、カージナルスの方が面白いと思う。状況次第では、カージナルスに私は乗る。エイリアンズも応援したいし。パワーズとソウエルもいるし。
 でもまあ、やっぱりナイナーズとシーホークスの一騎打ちだろうなあ。どっちが勝つかと云えば、やはりナイナーズか。しかし、NFC西は、ほんの5年くらいで恐ろしい地区になった。ラムズが哀れだ。

 一方のAFCであるが、こちらは本命無し。まあ、KCは無いと断言するが、そのほかの5チーム、5チーム目はまだ分からんが、それぞれ平等にチャンスがあると思う。それは、そのほかの5チーム、つうか現時点では4チームに、それぞれに長所があるというよりは、むしろそれぞれ重大な欠点を抱えているからである。パッツとコルツは純然たる戦力不足、ブロンコスはマニングの勝負弱さ、ベンガルズはマーヴィン・ルイスの教育者風の凡庸極まる采配、である。むしろ、まだ未知の6チーム目に期待する方が面白いかもしれない。スティーラーズあたりがひょこり出てきたら、それに張るのも一興であろう。私ならそうする。

 それでは、美奈様、あっ間違えた、みなさま良いお年を。

                                まだ疲れがとれない。 2013/12/29(日)
WildCard
Playoff
1月5日
KC@IND
44−45
 新年明けましておめでとうございます。

 という挨拶もそこそこにゲームの話である。

 私はこのゲーム、朝6時半に起きて生で見ていたのであるが、ゲーム中4,5回は諦めた。そうして、「トーラーのアホ、トーラーのアホ。」とか「リチャードソンはインケツなのかなあ。」とか「これで2年連続プレイオフ初戦敗退。ラック、首脳陣共々、良い薬になったろう。」とか言い訳ばっかり考えていた。

 特に、第3クォーター早々にインターセプトを喰らって28点差が付いた段階では、はっきり諦めた。QBがラックでなければ、例えばマニングであっても、ゲームを見るのさえ諦めて、寝床に付いていただろう。安西先生だって、家に帰っておはぎを食べていた筈である。「時間を無駄にしてはいけませんよ。」とか云って。

 私がその後も試合を見続けたのは、「QBがラックだった」という理由のみである。あとまあ、強いて言えば、「コルツファンとして、今季最後のゲームを見届ける義務がある。」なんて殊勝な気持ちもあったかもしれぬ。

 それでも、ゲームに勝とうなんて気持ちは全くなく、「タッチダウンを二つぐらい奪って、存在感を示してくれ。このまま終了では惨め過ぎる。」ぐらいの気持ちだった。まあ、将棋用語で云うところの「かたち作り」である。

 そうして、その後、タッチダウンを2つ返して、追い上げムードが高まった直後の第3クォーター中盤でのインターセプトでは、「完全に終わった。」と思った。
 しかし、そこから更にラックがあれよあれよと追い上げ、38−41と3点差になった時点でも、私は「お前ら、よくやった。これだけ追い上げれば何も云うことは無い。十二分に存在感を示した。」と段平チックな事を思っていた。
 と、このように28点差になってからの、私の心の軌跡を改めて書き連ねてみると、これ完全に敗者の心模様だわ。言い訳ばっかり考えとる。反省。猛省。

 で、そこでヒルトンの逆転タッチダウン(正確に云えば、同点だけど。)の出た瞬間、ジャンプしちゃった。右手突き上げてジャンプしちゃった。雄叫び付きで。いい年こいたオッサンが。
 で、最後、ボウへのパスをジョシュ・ゴーディがアウト・オブ・バウンズにした瞬間、右手三回ぐらい引いてガッツポーズしちゃった。雄叫び付きで。

 とまあ、逆転のラックとはいえ、コルツファンでも信じられない28点差の逆転勝ちがこのゲームの全てである。試合終了直後のアンディ・リード以下、狐につままれたような表情、それは昨季のライオンズや今季のテキサンズ、タイタンズのサイドラインと同じ表情であったが、それが非常に印象的だった。
 KCのサイドラインばかりでは無い。インディ・ファンで埋まったルカス・オイル・スタジアム全体も勝利の喜びよりは、「信じられない」という雰囲気の方が勝っていたと思う。ヒルトンの逆転タッチダウン(正確に云えば、同点だけど。)直後、アナウンサーは仕事として絶叫していたけれど、その後日米両放送席が絶句していたのも、私には印象深い。

 それくらい、有り得ないインクリヂブルな逆転劇だったと思う。28点差の逆転勝ち自体がまずインクリヂブルだし、かてて加えて、ここまで再三再四逆転勝ちを演じてきているラックをアンディ・リード以下KCの面々が警戒に警戒を重ねながらも、その警戒網をかいくぐっての逆転勝ちである。奇跡どころか、有り得ないであろう。でも、有り得たのである。

 実際、KCの敗因を問われても、解答は無い。パスが多かったリードのプレイコールを責める向きもあるが、ここまでのラックの事跡を考えれば、攻め気を忘れないためにパスを多めにするのも有り得なくは無いプレイコールである。実際、プレイコールにそんなに問題はなかったと思う。特に、試合終盤3点差3rd&7で出したクロスルートなどが考え抜かれたプレイコールだったと思う。その瞬間、「やられた。」と私は思ったものである。

 また、アレックス・スミスの判断ミスも散見されたけれども、致命傷とまではならなかったと思う。マシスのファンブルロストもミスちゃあミスであるが、この時点ではまだ21点差第3クォーターである。致命傷とはいえないだろう。

 そのほか、KCの大きな敗因としてケガ人多発が挙げられているが、何より28点差である。10点差ぐらいだったら、これが大きな敗因になるだろうが、後半28点差なら控えでも逃げ切れるはずである。

 とまあ、リードのプレイコールもスミスの判断ミスもケガ人多発も結局は28点差が解決してしまうのである。それくらい28点差は重い。千昌夫の借金ぐらい重い。
 そもそも後半14点差だって、なかなか逆転は難しいのである。フットボールというスポーツは、例えば野球などと違って一方的に攻めることが出来ない。野球であれば、3アウトにならない限り、無限に点が取れる。ところが、フットボールの場合は、加点の後、セイフティを除いては、必ず相手ボールになる。バスケットボールも同様のルールであるが、こちらには24秒バイオレーションがあるし、最悪ファウルゲームもある。24秒守る、ないしファウルをすれば、とりあえずボールは奪える、攻撃権を得られる。ところが、フットボールの場合は、3rdダウンないし4thダウンで止める、あるいはターンオーバーしないかぎりは、加点以前に攻撃権そのものが無い。これが、ボールコントロールオフェンスという守備戦術の生まれる所以である。

 しかも28点差である。1シリーズで7点取るにせよ、最低4シリーズ必要なのである。しかも上記したように、加点の後は相手ボールになるから、野球で云うところの裏表で、実質8シリーズ必要になる。ここで1シリーズ5分消費したとすると、5×8で、それだけで40分の消費時間である。後半30分では逆転不可である。

 こんな単純計算は無意味であろうが、それくらい28点差の逆転は難しい。それを可能にするとしたら、ターンオーバー多発しかない。ちなみに、私は以前、こういう場合、「単なるターンオーバーではなく、大きなリターンが必要。」と書いてきたが、これは修正する。「単なるターンオーバーではなく、ターンオーバー終了時点で敵陣深く、30ヤード以内にいることが必要。」に修正する。
 つまり、ターンオーバーしても自陣からの攻撃では意味が無いのである。敵陣でのターンオーバー多発が逆転の条件なのである。

 この好例が、今シーズンのDEN@NEであったろう。あのゲームは前半にNE側、後半にDEN側にターンオーバーが集中するという非常に奇妙なゲームであったが、結果的にはNEの22点差の逆転勝ちである。しかし、このゲームに、そのようなターンオーバー・レシオはない。それどころか、28点差後は1−2で、むしろコルツの方が−1のレシオなのである。

 それでも逆転勝ち。はっきり云って、私には説明が付かない。それも、3年に一度とか5年に一度とかぐらいであれば、「そういうゲームもあるよね〜。」解決できるが、ラックの場合はほとんどである。負けたとはいえ、今季のシンシィ戦も大差が付いてから猛烈に追い上げている。

 このラックの逆転勝ちについては、私もこの2年間色々考えているが、結論は無い。ただ、このゲームを見て、新たに思ったのは、NHKBSの放送で紹介されていた、少年時代のドイツ暮らしである。

 ラックの大差が付いても動じない、すなわち鈍感は、森鴎外がかつて暗愚と評したドイツ人のメンタリティに一脈通じるところがあるように思う。例えば、サッカーのW杯でドイツチームは絶対的圧倒的劣勢を跳ね返しての逆転勝ち、あるいは大アップセットを何度か歴史に刻んでいるけれども、ラックのそれもそれらに似たところがある。

 野村克也のいうように、私も「鈍感は罪」だと思っているが、劣勢下においては、それらを感じない、上記したしような私がテレビを見ながら感じた敗者の心理、すなわち負けた時の言い訳を考えずに、目の前のゲーム、眼前のプレイ、今やるべき事に集中するという鈍感さ、ドイツ人のような鈍感さが必要なのではないかと思った。それは、例えば、将棋ゲームにおける、投了プログラムの無いコンピューターのような、最悪の状況でも、頑なに最善手を探し、打つ、機械のような鈍感さである。

 人間は、ちょっとした不利やマイナスにも動揺しパニックに陥りやすい。そうして、言い訳を探す。そういうものと無縁な機械のような、あるいはそういうものに縁遠いドイツ人のような鈍感を、ラックは少年時代、ドイツで身に付けたのではないだろうか。どんな劣勢下でも正確にプレイし続けるラックのメンタリティは、ドイツ発祥なのではないだろうか。そんなようにも思った。とりあえず、純然たる技術論だけではラックの勝負強さ、逆転勝ちの多さは説明が付かないと思う。

 しかし、28点差でも安心できないとなれば、敵のコーチ陣プレイヤー双方にとって、大きな精神的負担になると思う。このゲームでも、リードのプレイコールに、表面的ではないにせよ、様々な無意識レベルの乱反射を与えたと思う。
 また、味方に対して、大きな希望を与えるものである事は、言うまでもあるまい。また、放送席や客席に、ある種の雰囲気を作る事も意外に大きな武器になる。

 でも、こうなったら、いっそ何点差まで逆転できるのか調べてみたい気もある。ラックなら45点差でも可能なのだろうか。今ポストシーズンはともかく、来季以降是非ともチャレンジしてもらいたいものである。どういう風に。どうして。

 ただ、ラックの逆転勝ちにおける最大の問題は、結局のところ、「何故、そのオフェンスを最初から、やらん。」に尽きるであろう。アジャストメントだけでは説明が付かない。

 ここまで、コルツのの逆転勝ちを全てラックに帰せてきたけれども、案外これは現在のコルツというチームの特性なのかもしれない。とすると、今までの考察は全て水泡に帰してしまう。そのへんも全く分からない。

 ラック話はこれくらいにして、他の話柄を。

 まずは、トーラー。敗戦していれば大きな敗因になったトーラーのヘッポコ・カバーであるが、これが久方振りの出場によるケガの影響なのか、セイフティとのコンビネーション不足なのか、それとも単なる実力不足なのかは、よく分からない。ただ、第1クォーターの失態後、パッと交代され、代わりに出てきたゴーディが活躍したのは、このゲームのひとつの要素であった。このゲームは、ラックの逆転勝ちが全てのようではあるが、ゴーディは影のMVPだったと思う。そういった意味では、このゲームはトーラーのヘッポコ・カバーに始まり、ゴーディのナイス押し出しで終わったゲームだったとも謂える。

 トーラーは契約上はFA入団だけど、表面的にはパワーズとトレードみたいなものなので、比較されないように頑張れ。

 次は、ベイ。ナイスブロックだった。スターターを降ろされながらも、スペシャルチーマーとして、ワイドブロッカーとして、腐らずプレイしている点は大いに評価したい。ドラフト一巡プレイヤーがこういう地位に落ちれば、ヘソを曲げても無理はないのであるが、根っからの善人なのであろう。好漢と評するべきか。まあ、スペシャルチーマーとしては文句ないし、ブロックも出来るし、たまにパスも捕れるので、小型中期契約ぐらいでチームに残しておくのも悪くないと思う。サイドラインでは盛り上げ役っぽいし。ほんと、いいひとなのだと思う。

 あと、サテーレ、ナイスヘディング。コルツ入団以来初めていーい仕事した。

 さて、ゲームの話はこれくらいにして、次戦のNE戦である。ベリチックがこのラックに対して、どのような対策を敷いてくるのか、私は大いに興味がある。そうして、それをラックがどのようにかいくぐるのか、大いに興味がある。プロ入りして2年間、ラックが最も完膚ない敗北を喫したしたのが昨季のNE戦だろうだからである。一コルツファンというよりは、一フットボールファンとして楽しみにしたいと思う。

 と、何だかコルツファンとしてあるまじき事を書いたけれども、これが次戦に向けての私の率直な気持ちである。なぜなら、このKC戦で腹一杯だからである。この1ゲームで1年間飯が食えるからである。あとはもう、負けても勝ってもどっちでもいい。それくらい、KC戦は興奮した。感動は5年に一度くらいで十分なのである。

 で、反対サイドであるが、これがまさかのチャージャーズ対マニング。つかサイファーズ対マニング。

 昨年最後の記事で、AFC第6のチームとしてスティーラーズあたりが出てきたら面白いと書いたが、それより面白いチャージャージャが出て来た。しかも、レギュラーシーズン最終戦、1.5軍のKC相手にOTまで持ち込むギリギリの勝利、しかも疑惑の判定付きである。いかにもチャージャーズらしい勝ち上がりである。近年まれに見るギリギリ(疑惑、つか誤審付き)のプレイオフである。それだけに不気味である。早速、初戦のシンシィに地味に勝っとるし。

 おそらくマニング側から見ても、プレイオフ進出11チーム中、つか全NFL31チーム中、一番不気味なのがチャージャーズ、つかサイファーズだと思う。

 また、チャージャーズ側から見ても、全NFL31チーム中、マニングに対して、最もコンプレックスを感じていないのが、このチャージャーズなのである。リバース以下、マニングを食う気マンマンであろう。

 心理的な理由ばかりでは無い。技術的な理由もある。その特殊な勝負弱さを除いては、ことクォーターバッキングに関しては完全無欠の如きマニングであるが、唯一の弱点が自陣10ヤード以内、あるいは5ヤード以内、私が逆レッドゾーンと呼んでいる自陣奥深くからのオフェンスなのである。自陣奥深くからのオフェンスだと、さすがのマニングも苦しむ。つか、大概のQBが苦しむ。
 そうして、マニングをこの逆レッドゾーンに釘付けにするとっておきの武器がチャージャーズにはあるのである。謂わずと知れたサイファーズである。

 もし、サイファーズが昔取った篠塚、もとい杵柄でマニングを自陣10ヤード以内、できれば5ヤード以内に釘付けにすれば、十分チャージャーズの勝利の目はあると思う。そうして、それは意外に高い確率だと思う。

 ラック以降、コルツファンになった方には、この感覚は分かり難いかもしれないが、マニング時代のコルツは、サイファーズに何度も煮え湯を飲まされているのである。サイファーズだけに負けたプレイオフすらあったぐらいである。サイファーズを最も高く評価しているのがマニング時代のコルツファンと言ってもよいくらいである。

 実際、一コルツファンの目から見ると、何故にサイファーズの評価がレッヒラーの後塵を拝しているのか、さっぱり分からないくらいである。サイファーズというのは、画期的なパンターだったと思う。彼以前のパンター、例えば、ザウアーブランとかムーアマンとか、上記のレッヒラーなどは、みな飛距離やハングタイムで評価されていた。飛ばせば飛ばすほど良いパンターだったのである。そこにコントロールという価値を持ち込んだのが、他ならぬこのサイファーズなのである。そうして、彼以降のパンター、アンディ・リーとかコルキット兄弟とかが一様にコントロールパントに長けているのも、明らかにサイファーズの影響だと思う。そういった意味では、パントの技術、更には価値に期を画したのがサイファーズだったと思う。

 という訳で、次戦はまさにサイファーズ対マニングの戦いである。第何ラウンドは数えていないが。世間一般は、ブロンコス圧倒的有利だろうが、私はここは思い切って、サイファーズに張りたい。

 でも、期待すっと負けっからな、あのチームは。あらゆる意味で期待を裏切るチームだからな。でも、フリーニーさんがいればなあ〜。フリーニー対マニング、コルツファン垂涎のマッチアップ。究極の対決。っだったのになあ〜。

 NFCは、順当にSEAとSFの決勝になると思う。セインツとパンサーズのファンには誠に申し訳ないが、両カードともにちょっと力の差があると思う。ケガ人とか誤審というような事件の無い限り、SFとSEAの決勝になると思う。まあ、ナイナーズ、つうかハーボーには、お付き合い癖があるので、そこを付ければパンサーズにはアップセットもあるかな、ないかな。まあ、お付き合いは大抵、「良いお友達のままでいましょう。」で終わるもんだけど。やさぐれ恋愛観。

                                          2014/1/10(金)

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